「mistake!」


容姿端麗
眉目秀麗
頭脳明晰
品行方正

若くして隊長となった男は、どこをとっても非の打ちどころもなく、
伝説の英雄の生まれ変わりとまで謳われている。
そんな奴の端正な顔が歪むのが見たくて、俺は何度も公衆の面前で超難解な議論を吹っ掛けたのだが、その度に的確な解答をされ目論見は連敗中だった。
今日もその帰り。
最高にムカつきながら自分の部屋へと廊下を急ぐ。

「ショックだよ。丁重にお断りされた。」
少年兵らしい声が突然耳に飛び込んできた。
声の聞こえるほうをたどってみると、少しあいた扉の向こう、誰もいない部屋で
少年兵が2人話している。
「しょうがないよルーク。ジークフリート隊長はストイックで有名だもの。」
なぐさめているのはルークの友達のロディ。
「思い切って告白したのに・・・『君の気持は嬉しいが、もっと大切なことに時間を使いなさい』だって。僕は隊長といられたら最高なのに。」
ルークと呼ばれた少年は2年ほど前に入隊した見習い兵で、格別に綺麗な子と有名だった。
「いままで何人も隊長にアタックしたらしいけど、全員玉砕だったってシド副隊長が言ってたよ。潔癖なくらい浮いた噂がなくて、色恋が嫌いなんじゃないかって・・」
「シド副隊長が言ってたなら本当にそうなのかな・・・。」

ここまで聞いて、俺はそっとその場を離れ、足早に部屋に戻った。
「フッ・・これはいいことを聞いたぞ。奴の弱点は色恋だったのか!」
見ていろよジークフリート!ほえずらかかせてやる!
俺は奴の困惑した、嫌悪感さえ浮かべた表情を想像しワクワクしながらシャワーを浴びた。
夜更けを待って、夜着に着替えガウンをまとった俺はジークフリートの部屋を訪ねた。

「なんだ。こんな時間に。」
すでに夜着姿だったが、予想通り奴は起きていた。
「すみません。隊長。あなたに教えてほしいことがありまして。
言いにくいことなのですが・・・」
少し怪訝な顔をされたが、神妙な顔つきで訴えてみる。
「いいだろう入れ。」
うまい具合に奴の部屋に潜り込めた。
初めて入ったジークフリートの部屋は、淡いベージュのセンスの良い家具でコーディネートされた、意外にも上品な部屋だった。
ソファに腰掛け、俺にも着座を促す。
「で、なんだ?教えてほしいことって?」
俺とジークフリートの間のテーブルには読みかけのシェイクスピアが置いてあった。
どうやら読書中だったらしい。
「実は・・・」
猫のように大胆にもその上を越えて、ジークフリートの首に手をまわし、瞳をウルウルさせ、いきなり唇を重ねた。
(さあ、驚け!ジークフリート!)
予想に反して反応はなく、俺はポカンとしているであろう奴の顔を想像しながら、やっと唇を離して奴の顔を覗き込む。
相変わらず取り澄ましたスカイブルーの瞳と視線がぶつかった。
(・・・?)
しばし沈黙。

「そうだったのか・・・嬉しいよアルベリッヒ。」

(・・・え?)

ぐいと体を引き寄せられ、ジークフリートの膝の上に抱きかかえられる。
「望みどおり、お前を私のものにしてやろうv」

(なにいいいいいいいいいーーーーー?!)

「えっ、いやっ、違っ!!!」
「照れななくていい。我慢できなくなったんだろ?」

そのままお姫様抱っこをされ、ずんずんとベットに直行された。
計算上絶対ありえないはずの展開に頭が激しく混乱した。

俺の計算が甘かったかーーーーーーーーーーーーー!!!

「い、嫌だ!!!」
のしかかられ、胸元に手をしのばせながら首筋に口づけられる。
その感触にぞくりと背中が沸き立ち、ジークフリートの肩を押して抵抗する。
「予想通り美しい体だ。優しくしてやるから・・・」
ジークフリートの指が胸の突起に触れ、一気に頭に血が上った。
「あっ・・・」
「感じるか・・?敏感だな。」
感じたことのない刺激に顔が紅潮する。
さらに全身をなでまわされ、甘い官能が少しずつ波のように広がって、意識が朦朧としていった。
こいう行為がどういうものかは知識では知っていたけれど、こんなに恥ずかしくて抗いがたいなんて・・・!!!
ジークフリートに導かれるまま、俺は初めて官能というものを知ってしまった。

気がつくと朝だった。
急いで起き上がると、すでに起きているジークフリートと目が合った。
素肌に羽織ったガウンの胸元から、鍛え上げられ引き締まった肉体美が垣間見えて、無意識に顔が赤くなってしまう。
(気まずい・・・すごく気まずい・・・)
「おはよう、アル。
フフ・・・照れているのか?かわいいなv」
(バカ!違うって!)
奴はものすごくスッキリした表情に見たことのない爽やかな笑顔で、俺の頬にキスをした。
しかも、いきなり愛称かよ!
「ストイックじゃなかったのか・・・?今まで一度も告白を受け入れたことなかったって・・・」
「ああ、たまたま相手に興味がなかっただけだ。
私は愛していない者とは戯れでも付き合う趣味はないからな。」
「じゃあ、俺は?」
「もちろん、愛しているからだが?
いつもつっかかってくるから、嫌われているのかと思ってたぞ。」

「遅刻するといけないので、失礼!!」

馴れ馴れしくキスをしようとするジークフリートを押しのけて、急ぎ夜着とガウンをまとおうとしたら、下半身に力が入らずにぺたりと座りこんでしまった。
「あ・・・?」
いつもと違う下肢のけだるい感覚に戸惑う。
「あの様子じゃ初めてだったようだからな・・・。
 ちょっときつかったかな?」
いたわるように優しく抱き起こされる。
ジークフリートにこんなに優しくされるのは初めてだ。
不本意にもドキドキしてしまった。
「失礼する。」
なんだか妙に居心地が悪くなって、その手を振り払うと俺はなんとか奴の部屋から飛び出した。
今から部屋に戻って準備すれば、朝の出廷には十分間に合う。
この時間なら、廊下を歩いている兵も少ないはず・・・
と思ったら、扉を開けた瞬間にルークとロディに出会ってしまった。
案の定、2人はびっくり眼で俺に釘付になっている。
(しまった・・・!なんでよりによってこの2人に・・・。)
乱れた姿とこの時間に奴の部屋から出てきたなんていうシチュエーションは、見ただけでどういうことかは誰でも察しがつく。
「あ・・・おはようございます。アルベリッヒ様。」
深々と頭を下げられるが、ルークの顔が固まっているのがわかる。
「お、おはよう。」
とっさに普段したことのない営業スマイルを浮かべてしまった。
できる限り足早に自分の部屋に向かうが、後ろの2人のひそひそ声が耳に入ってきた。
「アルベリッヒ様って・・。」
「ああ、ジークフリート様の恋人だったんだ・・・」

この後、ワルハラ宮内で俺たちが公認の仲となるのに時間はかからなかった。


fin



Back

inserted by FC2 system