「Rhapsody in Blue」


あの聖闘士との戦いから、ヒルダ様の祈りによって復活した俺達は再び平和な日々を送っていた。
そして昔のように、フレア様との幸せな時間が戻ってきた。
そんなある日のことだった。

「ハーゲン!今度アスガルドに氷河が遊びに来るのですって。」

フレア様が満面の笑みで駆け寄ってきた。
おれは一瞬凍りついたように固まって、耳を疑った。

「え・・・?えっ?フレア様、今何と・・・?」

「アテナの聖闘士の氷河が遊びに来てくれるのです。
氷河はあれ以来、ずっと私を気遣って手紙を送ってきてくれてたのよ♪」

(なに〜〜っ!フレア様と文通!?あんの白鳥野郎め〜〜〜!)

久々に俺はフレア様の前で危うくコスモを爆発させそうになりかけ、必死で止めた。

「はあ〜はあ〜ぜ〜ぜ〜(汗だく)」
「は、ハーゲン??大丈夫??」

「大丈夫です。すみませんっ!フレア様。」
「それで、せっかくだからお料理作って、氷河とお庭でランチにしようかと思って」

(ぬあに〜〜!フレア様と2人でお庭で手作り料理だと〜〜!
それって・・・それって・・・デートじゃないか!!そんなこと断じて許せん!)

「フレア様、恐れながらこのハーゲンも、ご一緒させていただきとうございます。
氷河も人数が多い方がにぎやかだと思いますし。
それにお料理もおひとりでは大変でしょうから、お手伝いいたします。」

「それは助かるし頼もしいわv
でも、ハーゲン、あなたお料理できたのでしたっけ?」

「(ギクッ)ええ、はいお任せ下さい。」

「そう?じゃあ、お手伝いもお願いね。」

軽やかな足取りで去っていくフレア様の後姿を、俺は爽やかな笑顔で見送った。

(よっしゃあ〜!とりあえず、2人でデートは回避っと。
氷河め、見てろよ〜〜!フレア様はお前には渡さん!!)


それから数日後、氷河が来る予定の朝にフレア様に誘われて厨房に向かった。
早速、手際よくフレア様がパンに野菜やハムを挟んで小さくカットしている。

「フレア様、それならばこのハーゲンが。」

「そう?じゃあお願いね。サンドイッチは任せるわ。
じゃあ、私はお肉を焼いてデザートを作るわね。」

「はい、フレア様。」

微笑みあってフレア様に背を向けると、俺はサンドイッチの2切れにハバネロを塗りまくった。

(ふふふ、氷河め。泣いてシベリアに帰るがいい〜〜!)

「わっはっは〜〜〜!」

興奮のあまりついつい声に出してしまい、フレア様が目をまん丸にしてこっちを見ている。

「・・・ハーゲン?・・・あなた、まだちゃんと治っていないのではなくて?」

「いえっ!!!大丈夫ですっ、フレア様。
あの・・・その・・・あまりにも楽しみでっ!!」

「まあ、そうだったの?私もよ♪」

「ははははは」
「うふふふふ」

かなり焦ったが、何とかごまかせたようだ。
氷河用ハバネロ入りサンドイッチは、わかりやすいよう端っこにスタンバイしておいた。
間違ってもこれをフレア様に食べさせてはいけない。

「フレア様、聖闘士の氷河が来られましたよ。」

シドが厨房に呼びにきた。

「準備もできたし、さあ、ハーゲン行きましょう!」

「は、はいっ」

「なんだ、ハーゲン?お前、料理手伝ってたのか?」

シドめ、余計なつっこみはいらんのだ。
料理をつめたバスケットを持って、来客室へと向かった。

そこではソファーに腰かけたヒルダ様と氷河、そして変な形の眉毛をした子供が3人で和やかに談笑していた。

「まあ、氷河!アスガルドまで来てくれてありがとう!」

「フレア!元気そうで安心したよ。」

「お姉ちゃん、久しぶりだね〜!」

「貴鬼も来てくれたのね!嬉しいわ。ハーゲン、あの後この貴鬼が私を看病してくれたのよ。」

なるほど、このガキはフレア様と知り合いらしい。
しかも、どうやら恩人のようだ。

「そうだよ。オイラ、貴鬼ってんだ。
あんた、お姉ちゃんに・・・もごっ」

「おい貴鬼、余計なこと言うな。久しぶりだな、ハーゲン。」

氷河が後ろから貴鬼の口をふさぎながら、挨拶する。

「・・・ああ。」

あの時の、氷河をかばったフレア様に剣を向けた時の光景が一瞬頭をよぎって、俺はとても嫌な気分になった。
判断に迷ったが、ヒルダ様の戦士として、ああするしかなかったのだ。
しかも、2人が向かい合って嬉しそうに話しているのを見ると、胸が痛む。
正直、確かに氷河は美形だと思うし、いい奴だとも思うが、フレア様だけは渡すわけにはいかない。

「氷河、お腹すいたでしょう?
私お食事を作りましたから、お天気もいいしみんなでお庭で食事しましょう。
ね、お姉さま?」

「まあフレア、素敵だわ。
でも私は今からお祈りの時間だから、あなたたちで行ってらっしゃい。
氷河、ゆっくり楽しんでいってくださいね。」

「はい、ありがとうございます。」

そういうと、ヒルダ様はシドにエスコートされて部屋を出て行った。
俺たちはフレア様お手製の料理を両手に持って、ワルハラ宮の南の庭に移動した。

「これは綺麗な庭だな・・」

氷河が感嘆の声を洩らす。
そうだろう。ここはヒルダ様もフレア様もお気に入りの、ワルハラ宮で一番花が咲く庭なのだ。

「よかったわ。さあ、お食事にしましょう。」

敷物をしき、料理を広げる。
新鮮なフルーツを絞ったジュース、肉を味付けしてローストしたもの、フルーツ、アップルパイ、そして例のサンドイッチ。

「いっただきま〜す!わあ〜おいしい!!」

さっそく貴鬼がもぐもぐと食らいついてる。

「さあ、氷河も」

そう言って俺は例のサンドイッチを差し出す。
突然、だんまりから笑顔に豹変した俺にかなり氷河は戸惑っていたようだったが、それでも好意と受け取ったらしく
にこりと微笑むとその激辛サンドイッチを受け取った。

「ありがとう。ハーゲン。」

ちょっと罪悪感が胸をチクリと刺したが、気にしないことにした。
何も知らない氷河は、俺の特製サンドイッチを一口かじった。

「ハーゲンも作るのを手伝ってくれたのよ。どうかしら?」

氷河が無表情で固まってぽろぽろと涙をこぼし始めた。

『ふふふ、どうだ氷河。辛いか!
あの時の俺のつらさを思い知れ!』

俺は小宇宙で氷河に話しかけた。

『ハーゲン、お前・・・・!』

「どうしたの氷河??涙が・・・」

「フレア、ありがとう。あまりにもおいしくて涙がでたんだよ。
じゃあ、俺からもハーゲンに。」

そう言って、氷河は小宇宙でもうひと切れの激辛サンドイッチを探し当て、ハーゲンに渡した。
そうきたか!しかし、フレア様の手前、断るわけにはいかなかった。

「あ・・・ありがとう、氷河。」

そう言って俺は自らの作った激辛サンドイッチを味わう羽目になった。

(か、か、か、辛い〜〜〜〜〜っ!!!)

氷河が滝涙を流しながら俺を見つめている。

『どうだ、ハーゲン仕返しだ。この辛さはひどすぎるぞ。まるでシャカの天舞宝輪にかかって味覚を奪われたかのようだ。』
『くそ〜〜!!小宇宙で探すとはさすがはアテナの聖闘士。しかし辛いっ!』

またしても小宇宙会話をしながら、今度はおれも滝涙を流しながらこらえる。
表面上は平和に無表情で涙を流しながら見つめあっている俺達だったが、裏では小宇宙でバチバチと火花をちらしていたのだった。
小宇宙って便利だな・・・

「2人とも・・・どうしたの?」

さすがに妙な光景だったらしく、フレア様がおそるおそる話しかける。

「フレア様、氷河と2人で話をしてきます。
再会があまりにも嬉しくて涙が止まらないのです。なあ、氷河?」

「ああ、そうだ。ちょっと2人で話してくるよ。」

精一杯の笑顔でそう言うと、俺と氷河は高速でダッシュした。

「「み、みず〜〜〜〜〜っ!!」」

声をそろえて井戸へ向かう。
2人して水を一通りがぶ飲みすると、息を切らしながらお互いをにらみ合う。

「氷河!貴様フレア様をたぶらかしたあげく、あの後文通までしていたそうだな!」

「たぶらかしたとは失礼だな。結局あれはフレアが一番正しかったじゃないか!」

「黙れ!フレア様を気安く呼び捨てにするな!文通だと?まさかラブレターじゃあるまいな?!」

「バカ、俺は純粋にフレアを元気づけるためにだな・・・」

「とにかく!貴様にフレア様は渡さん!」

「相変わらず、人の話を聞かないやつだな!
よ〜し、こうなったら、俺とお前とどっちが好きか、フレアに直接聞いてみようではないか!」

「なにっ!フレア様に??それは・・・」

氷河の大胆な発言に、俺は戸惑いを 隠せなかった。

「どうした、自信ないのか?
北欧の荒くれ馬、ハーゲンともあろうものが。」

なにが根拠かわからないが、氷河は自信たっぷりだ。

「ば、馬鹿を言うな!
俺は子供のころからずっとフレア様を見てきたんだ。
絶対にフレア様は貴様なんかより、俺を選ばれるはずだ!」

「よーし、じゃあ決まったな。」

勢いでタンカをきったものの、半分後悔している俺・・・。

「なにやってるの?2人とも?」

背後からフレア様の声がして、心臓が飛び出そうになった。

「ふっ・・・フレア様!いえっ、あのっ・・・」

「フレア、単刀直入に聞くが、俺とハーゲンのどちらを彼氏に選ぶ?」

(わー!氷河の馬鹿!本当に聞きやがった!)

「えっ・・・?選ぶって?彼氏って・・・?」

氷河の唐突な質問に、フレア様はつぶらなブルーの瞳をまん丸にして驚いている。
心臓の音が空間にこだましているかのごとく錯覚を覚えて、手に汗握る。
こんなに緊張したのは生まれて初めてじゃないか?


「ウフフッ、選ぶだなんて。
2人とも大切なお友達じゃない。」


その緊張はフレア様の鶴の一言で一気にガラガラと崩れ落ちた。
氷河も横でショックを受けて凍りついている。

「えっ・・・お友達・・・ですか?」

「そうよ?」

満面の笑みでフレア様は答える。

「子供のころからずっとお側にいるのに・・・・」
「せっかく彼女ができると思ったのに・・・・・」

ついつい本音を漏らして、俺と氷河はヘナヘナ〜と座り込んでしまった。

「 あれえ〜?みんなこんなところにいたの?
遅いからオイラお弁当全部食べちゃったよ。」

そういば、忘れていた。
貴鬼もいたんだっけ。

「あ〜、おいしかった!
お姉ちゃん、お料理上手だね!
オイラが大きくなったら彼女になってよ。」

貴鬼が無邪気に爆弾発言をしてくれた。

「いいわよ。」

「ええ〜〜〜〜〜!
いいんですかっ!?フレア様っ!?しかも即答ってっ!!!」

文字通り度肝を抜かれて俺は叫んだ。

「だって、私が倒れていた時、ずーっとそばにいて看病してくれたんですもの。
とっても優しくて親切で頼りになったわv
ありがとう貴鬼。」

「そんなっ・・・」

噴水のように涙が流れて止まらない。
確かに言われてみれば、あの時貴鬼の献身的な看護のおかげでフレア様はお元気なられたのだった。
ヒルダ様や俺達を敵に回してでも、一人で戦いを止めようと必死だったフレア様にとっては数少ない味方だったのだ。
ふらつく俺を氷河が受け止めた。

「しっかりしろ!ハーゲン。
お前にはショックが大きかったか・・
俺はこういうのは慣れてるがな。」

「氷河、お前・・・」

「俺はわが師より、『女の子を見かけたら果敢にアタックしないとシベリアでは一生彼女などできないぞ』と教えをいただいている。」

「そうか・・・お前も結構苦労してんだな・・・」

氷河はこういうことには免疫があるらしく、立ち直りが早かった。

「2人とも本当に仲良しなのね^^
じゃあ、私は貴鬼と先にワルハラ宮に戻ってるわ。ごゆっくり。」

「うん!じゃあね〜!」

「ええっ、待ってください!フレア様」

(フレア様!これは友情じゃなくて同情ですから!!)
と思う俺を尻目に、フレア様と貴鬼は一緒に去って行った。


「ハーゲン、『しつこい男は嫌われるぞ」ともわが師が言っておられたぞ!」

2人の後を追いかける俺に氷河は、言葉の鉄拳を飛ばした。
やはりこいつとは仲良くできそうにない。

「ちくしょ〜!俺はあきらめないぞ〜〜〜!フレア様〜〜〜!」

のどかなアスガルドの空に、俺の声がこだました。
恋のライバルは意外なところにいたのだった。
悩ましい俺の日々は続く・・・。


Fin

ハーゲン×フレア派の方、ごめんなさい!あくまでコメディですから。
これでも私はハーゲン×フレア派です。
ガーシュウィンの「Rhapsody in Blue」のイメージで書いてみました。


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